動物病院の開業準備において、あるいは長年続いた紙カルテからの脱却を考える際、最も頭を悩ませるのが電子カルテシステムの選定ではないでしょうか。現在、獣医療業界には素晴らしい機能を持った電子カルテが数多く存在しています。しかし、それらの多くは高額な初期費用や、毎月発生する決して安くはないランニングコストを必要とします。
「VetCare Pro」は、そのような現状に一石を投じるべく公開された、オープンソースかつ無料で利用可能な動物病院専用の電子カルテシステムです。AIが開発し(とは言っても少なからず人力の手直しと機能の強化が入ってますが)、公務員獣医師という、臨床の最前線とは少し異なる視点を持つ獣医が監修しました。
VetCare Proとは何か?
VetCare Proは、小中規模の動物病院向けに設計された軽量な電子カルテシステムです。その最大の特徴は、技術的な単純さにあります。
多くの商用システムが複雑なフレームワークや独自のデータベース構造を採用してブラックボックス化しているのに対し、VetCare Proは極めて標準的なPHPというプログラミング言語で書かれています。データベースには、設定不要でファイル一つで完結するSQLiteをデフォルトで採用しており(MySQLにもできます)、院内のサーバー、またはVPSサービスやレンタルサーバーにファイルをアップロードするだけで即座に稼働させることが可能です。
通常、Webシステムの導入にはデータベースサーバーの構築や複雑な権限設定が必要ですが、VetCare Proはブラウザ上のインストーラーに従うだけで、データベースの初期化から管理者アカウントの作成までが完了します。技術的な知識が浅い方でも、XAMPPなどのソフトウェアを使えば、院内のパソコン1台をサーバー化して運用を開始できる設計になっています。
他のカルテシステムとの比較
比較対象は「紙カルテ」「汎用ソフト」「クラウド型」「専用機」です。
VS 紙カルテ
紙カルテのメリットは自由度と停電に強いことです。しかし、最大のデメリットは検索できないことと場所を取ることです。「あの子、去年の春に何の薬を使ったっけ?」と思った時、紙の山から探すのは数分のロスになります。電子カルテなら、検索窓に名前を入れるだけで1秒です。ただし、紙のように自由に絵を描いたり、斜めに文字を書いたりすることはできず、ペイントソフトなどで手書きするか、書いた写真を撮る必要があります(アップロード機能・画像挿入機能がない電子カルテはそれすらできませんが)。
VS Excel・FileMaker(自作派)
パソコンが得意な先生は、ExcelやFileMakerで自作されることもあります。これらは自由度が高いですが、データ量が増えると重くなったり、ファイルが壊れたりするリスクがあります。また、複数のPCから同時に書き込むとデータが先祖返りする排他制御の問題が常につきまといます。パソコンが得意な先生は、ExcelやFileMakerで自作されることもあります。これらは自由度が高いですが、データ量が増えると重くなったり、ファイルが壊れたりするリスクがあります。また、複数のPCから同時に書き込むとデータが先祖返りする「排他制御」の問題が常につきまといます。VetCare Proやクラウド型の電子カルテはWebシステムなので、複数人が同時にアクセスしてもデータが壊れにくい構造になっています。
VS クラウド型(アニレセクラウド、ハルメクなど)
現在主流のクラウド型は、月額数万円程度で利用でき、サーバー管理もお任せできるのが魅力です。しかし、インターネットが繋がらなければカルテが見られない(サーバーダウンだけではなく、回線不具合でも業務に支障が出る)という致命的な弱点があります。また、月額費用は一生かかり続けますし、サービス終了のリスクもあります。
VS オンプレミス専用機(アミクスなど)
これらは最強です。血液検査機器との自動連携、レントゲン画像の取り込み、安定した動作。臨床現場を知り尽くしたプロが作っています。しかし、初期費用で数百万円、保守費用で数十万円がかかります。開業直後の不安定な時期に、この固定費はネックになります。
VetCare Proの立ち位置
VetCare Proは、機能面では専用機やクラウド型の有料サービスに遠く及びません。検査機器との連携機能もありません。しかし、初期費用0円、月額0円で、追加料金もありません。そして、インターネットに繋がない院内サーバーとして構築すれば、クラウド型のようなネット回線トラブルのリスクもありません。
| 比較項目 | VetCare Pro | 紙カルテ | クラウド型カルテ | 専用機カルテ |
|---|---|---|---|---|
| 導入コスト | 無料 | 低 | 低〜中 | 非常に高い |
| 維持コスト | 無料 ~低 | バインダー代等 | 月額固定費 | 保守費 |
| 検索性 | 〇 | × | ◎ | ◎ |
| 機器連携 | × (手入力) | × | ?(一部可) | ◎ (自動取込) |
| ネット依存 | 場合による | なし | あり (必須) | なし |
| カスタマイズ | △ (技術があれば) | ◎ (自由記述) | × (仕様依存) | △ (設定のみ) |
運用環境の提案
「Webシステムなら、さくらインターネットやエックスサーバーのようなレンタルサーバーやVPSに置けばいいのでは?」と思われるかもしれません。もちろん、院外からもスマホでアクセスできるため、往診先や自宅でカルテを確認できるなどのメリットはありますが、セキュリティリスクが最大になります。一般的なレンタルサーバーは、一つのサーバーに多数のユーザーが同居しており、設定を誤るとデータベースファイル(SQLiteの.dbファイル)が外部からダウンロードされてしまう危険性があります(※VetCare Proにはアクセス制限ファイルが含まれていますが、サーバーの設定によっては機能しないこともあります)。また、インターネット経由である以上、サイバー攻撃のリスクは常に付きまといます。
※ただし、接続元IPアドレスの制限、あるいはクライアント証明書(特定の端末からしかアクセスできない仕組み)を導入することで、物理的にはクラウド上にありながら、病院関係者以外はそもそも接続画面にすら辿り着けない環境は構築できますし、セキュリティ重視の法人向けプランやマネージドサービスを選べば、WAFやIPS、24時間の監視体制があらかじめ提供され、インフラレベルでの攻撃を防げます。
推奨構成→XAMPPやサーバーを使った院内クローズド環境
最も安全で、かつコストがかからないのは、院内にある少し良いスペックのパソコン1台をサーバーにしてしまう方法です。
- XAMPP(ザンプ)の導入: パソコンをWebサーバーにするための無料ソフトXAMPPをインストールします。
- 院内LANでの運用: そのパソコンを院内のWi-Fiルーターに有線で繋ぎます(無線でも構いません)。
- アクセス: 診察室のノートPCや、処置室のタブレットから、そのサーバーPCのアドレスにアクセスします。
この方法のメリットは計り知れません。
- 外部からの攻撃遮断: インターネットから隔離された院内ネットワークだけで動くため、外部からの侵入は物理的に不可能です。
- 高速動作: インターネット回線の速度に依存せず、院内LANの速度でサクサク動きます。
- メンテナンスの自由: レンタルサーバーの定期メンテナンスで夜中に使えない、といったことがありません。ご自身のタイミングで再起動できます。
- 災害への強さ: インターネット回線が切断されても、院内の電気が生きていればカルテは閲覧・入力可能です。
ただし、院外からは見られません。また、そのPCが壊れたらデータが消えるため、USBメモリや外付けHDDへのバックアップが必須です。VetCare Proには管理画面からワンクリックでバックアップを作成する機能があるため、これを毎日行う規律が求められます。
VPS(仮想専用サーバー)
技術に自信があるなら、VPSを借りてVPN(仮想プライベートネットワーク)を構築し、特定の端末からのみアクセス可能にするのが最も安全かつ便利ですが、構築難易度は高くなります(そしてVPSは料金が高いためVPSを使うなら公式ホームページを作るとか他のツールを入れるとかしない限りVetCare Proを使うメリットはほぼなくなります)。クラウド型カルテの隠れたデメリットとしてメンテナンスによるサーバーダウンがあります。業者の都合で夜間にシステムが止まることがありますが、VetCare Proならメンテナンスは自分のタイミングで行えます。アップデートも強制ではありません。
メリットとデメリット
正直に申し上げますと、このツールのメリットは無料であること、これに尽きるかもしれません。
メリット
- 圧倒的なコストパフォーマンス: 0円です。気に入らなければ捨てるだけです。
- ソースコードの公開: プログラムの中身がすべて公開されているため、詳しい人なら「ワクチンの種類を増やしたい」「帳票のデザインを変えたい」といった改造が自由自在です。
- データポータビリティ: データは全て手元にあります。将来、有料のカルテに移行する際も、データ(CSVやSQL)を抽出して移行できる可能性があります(有料カルテ側の対応によりますが)。
デメリット(ここが重要です)
- セキュリティは自己責任: 機器をインターネットにも接続する場合、院内サーバーのウイルス対策や、データのバックアップは、院長先生ご自身(または詳しいスタッフ)が責任を持って行う必要があります。
- 「素人」監修の限界: 監修しているのは公務員獣医であり、臨床の現場を深く知りません。「実際の診察フローではこう動線がないと不便だ」「この入力項目は必須じゃないと困る」といった、現場ならではの痒い所に手が届いていない可能性が高いです。例えば、保険の対応欄はありますが、窓口精算の複雑な計算ロジックや、レセプトデータの自動書き出し機能までは実装されていません。
- 機器連携なし: 血液検査の結果は、紙(または電子)の結果を見ながら手打ち入力する必要があります。レントゲン画像も、手動でアップロードしなければなりません。これは忙しい病院では致命的な時間のロスになります(直撮りしてアップロードしてしまうという裏技もあります)。
- サポートなし: バグがあっても、使い方がわからなくても、メーカーのサポートセンターはありません。すべて自己責任です(連絡くださればできる限り対応します)。
VetCare Proの機能深掘り
では、実際にどのようなことができるのか、具体的な機能を見ていきましょう。
視認性の高いダッシュボードと予約管理
ログインすると、その日の予約数、入院患畜数、未実施のオーダーなどが一目でわかるダッシュボードが表示されます。予約システムは「予約」「受付済」「診察中」「会計済」といったステータス管理ができ、直接来院の受付もスムーズに行えます。
写真も貼れる電子カルテ (SOAP)
カルテ画面は、獣医療で標準的なSOAP形式(主観的データ、客観的データ、評価、計画)で入力できます。特筆すべきは画像の添付機能です。患部の写真、手書きのメモのスキャン、外部検査センターの結果用紙などを写真で撮り、カルテに紐付けることができます。
アナログ感覚の温度板機能
入院管理機能では、体温・心拍・呼吸数などのバイタルサインを時系列で入力でき、それが自動的にグラフとして表示されます。食事の摂取量や排泄の状態、動物看護師による申し送り事項も同じタイムラインで管理できるため、獣医師と動物看護師の情報共有ミスを防げます。
柔軟な書類作成と印刷
紹介状、診断書、ワクチン証明書(公的な書式ではありません)、そして死亡診断書まで、様々な書類を作成・印刷できます(獣医ではあまり使わない書類ですが)。過去のカルテ内容を引用して作成できるため、転記ミスも減らせます。印刷プレビュー機能も備わっており、A4縦やA5横(処方箋用)など、用紙サイズに合わせた出力が可能です。
在庫管理と発注アラート
薬品マスタには在庫数と「発注点(最低在庫)」を設定できます。在庫が設定値を下回ると、ダッシュボードやアラート画面で警告が出るため、薬切れという致命的なミスを防ぐことができます。会計処理を行うと自動で在庫が減る連動機能も搭載されています。
導入推奨ターゲット!こんな病院に向いています!
VetCare Proは万人に勧められるものではありませんが、以下のようなケースでは最適解となり得ます。
- 開業直後の動物病院: 資金を温存したい、かつ患者数がまだ爆発的ではない時期。
- 紙カルテからの脱却を狙う病院: とりあえずコストをかけずに電子化のメリットを試してみたい場合(実務にはある程度耐えるつくりにはなってます)
- 将来的に有料カルテへ移行予定の病院: とりあえずのつなぎとして使い、軌道に乗ったら有料版へデータを移行する(CSVエクスポート機能などを自作したりAIに作らせれば安易に可能です)。
- 院内サーバーを置ける環境: セキュリティを自前で担保できる環境がある場合。
- 改造して使い続ける場合: ある意味最強の選択肢かもしれませんが、それほどの技術があるのであれば、一から作ったほうが良いものが作れるかもしれません。
逆に、「パソコンが苦手」「トラブル時は電話ですぐサポートしてほしい」「検査機器連携が必須」という先生には、迷わず有料の電子カルテをお勧めします。
使い方と運用上の注意点
VetCare Proを快適に使うためのアドバイスです。
- ブラウザはGoogle Chromeを推奨: 一部最新のWeb技術を使用しているため、Internet Explorerなどの古いブラウザでは動作しません。Chromeなどのモダンブラウザを使用してください。
- 印刷はPCから: 領収書や処方箋の印刷機能は、スマートフォンやタブレットからの印刷ではレイアウトが崩れる可能性があります。受付や診察室のWindowsのPC・Chormeから印刷することをお勧めします。
- 印刷設定のコツ: 印刷時にブラウザのヘッダー(URLや日時)やフッターが印字されてしまうと見栄えが悪くなります。印刷プレビュー画面の「詳細設定」で「ヘッダーとフッター」のチェックを外して印刷するときれいに仕上がります。
- セキュリティファイルの削除: インストールが完了したら、サーバー上にある
pages/install.phpやpages/update_db.phpなどのセットアップ用ファイルは必ず削除してください。これらが残っていると、第三者にシステムを初期化されてしまうリスクがあります。
VetCare Proは無料以外にメリットがあまりありません。そしてそれらをなくし、有料の電子カルテにも負けず劣らずの電子カルテを作りたいなと思ってます。素人監修ゆえの不完全さを許容し、むしろそれを楽しんで改善していける先生方からのフィードバックを、心待ちにしてます。
獣医療IT化の最初のステップとして、VetCare Proを試してみてはいかがでしょうか。
導入マニュアル↓
https://funakamome.com/vetcare/about/index.html
デモページ↓
https://funakamome.com/vetcare
ダウンロード↓
初期版
https://github.com/boris15413-jpg/vetcare-pro




